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2013/10/13

作業の苗

私の前を歩くな.私が従うとは限らない.
私の後ろを歩くな.私が導くとは限らない.
私たちと共に歩け.
私たちはひとつなのだから.

ソーク族の格言(アメリカ先住民族)






「何もしたくない.煙草を吸っている時間が一番いい」
通所でレクや歩行訓練に参加はするけど,表情は冴えていなかった.
自宅ではベッド上ですべての生活行為を済ませていた.
家族関係も課題として会議では上がっていた.
平行棒内の歩行は全介助だったが,訓練効果はほとんどなかった.
口癖は,何もしたくないから構わないでくれ,だった.

しかし,気難しい人ではなかった.
強く促せば何にでも参加した.でも,何かが引っかかっていた.
大切な作業と作業についての物語を確認したかったので,ADOCを使った.


「里芋を育てることは,今のオレでもできるんだろうか」
・・・できるかどうかはやってみないとわかりませんが,なぜですか?
「里芋で作った味噌汁を,あいつに作って欲しいんだよ」


昔よくやっていた自分の仕事だったんですか?
「畑はよ,おれにとって大事な楽しみだったよ」
奥さんにとっても思い出が深いことなんですかね?

「そうだと思うよ,いや,わからんけど,たぶんそうかなと思う」
いま,あなたが奥さんのためにできる仕事だとボクは考えてもいいですか?
「そうだな,夫としての仕事ができるとしたら,それしかないんじゃないか」

まずやってみて,その場面を観察して,実現可能か判断します.
できるだけ1人で安全に時間をかけ過ぎず,収穫までの期間ずっと,
あなたが芋を育てることができる方法を考えてみましょう.


すぐに里芋の苗を準備して,特養ホームの園庭の一角に場所を確保した.
園芸が趣味だったから,ずっとやりたかったと話した別の利用者と一緒に,
苗を植えて,車いすに乗ったままでホースを握って水を撒いてもらった.

観察場面から評価したことを彼にフィードバックして,
彼と一緒に目標を設定し,支援計画を立案した.
ADOCのPDF資料を印刷し,カンファレンス資料としてカルテに差し込んだ.

声かけが必要な日もあったけど,芋を見てこようと話すようになった.
殺虫剤が必要だから買いに行こうと訴えてきた.
奥さんは「信じられないね,すごいじゃない.楽しみにしているよ」と話した.


3ヶ月前には芽吹いていなかった,この日常的な場面をイメージしていた.
彼が撒いているのは水ではなく,夫らしさを取り戻す機会だと思い,彼に伝えてきた.
もし違うなら何時やめてもいいけど,別の何かを探そうと提案してきた.


「あいつのためだからな,これだけはちゃんとやるよ」


種を明かせば,作業を発掘し,物語を彼と築いたのは1年目OTとOT実習生.
里芋を購入し,植え付けて,水やりの練習をしたのも,彼ら.
実習生の養成校卒業生と教員らが立上げた学会で発表したのも,彼ら.

彼らが次に進むために,冷静と情熱の水を与えてくれたのは,
侍OTさん,鳥人OTさん,種まきOTさん,YMCA米子OTさんたち.
半年前に見えていた芽が,ちょうど今,芽生えてきた.


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