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2012/10/15

ゴールデン・ディナー

アンチ・エイジングとは加齢への抵抗.
ゴールデン・エイジとは古き良き時代.
ゴールデン・エイジングという言葉があってもいいよね.



回復期リハ病棟に6ヶ月入院後,通所を利用して1ヶ月が経過していた.
彼は胃瘻から栄養剤を摂取し,ADLは全介助で要介護5だった.
言葉を聞いたことがなかったので,話せないだろうと思っていた.

ADOCを使って作業療法の目標を一緒に決めることにした.

食事のイラストを指差して,「食べれるようになりたい」と彼は話した.
「毎食,口から食べれなくもいい.
夕ご飯の時だけは,家族と同じご飯が食べたいんだ」と泣きながら話した.









泣き終わるのを待って,作業療法士としての意見を伝えた.
事前にカルテを読みました.医師はムリだと書いてありました.
その根拠は,病院のリハスタッフの評価でした.

でも詳しく書いてありませんでした.
楽しみ程度の少しの食べ物もあげてはいけせん,と書かれていました.
検査の時に,どれくらいムセましたか?

「はじめに少しムセたかもしれない.口に水を入れたのは1回だけだった.
ボクはね,納得していない.7ヶ月前からずっと納得していない.
お腹に管を入れたことは,理解できないとずっと思っていた」

話しながら滑舌と会話内容を観察していますが,唾液を飲み込みましたね.
飲み込みが可能か判断するために水飲みテストを,今すぐ実施しましょう.
課題があれば,どこに,どんな課題が,どれほどあるか意見を伝えます.
家族と夕ご飯が食べれることを目標にするか,その時に一緒に判断します.



・・・問題ありませんでしたね.それではリハ目標にしましょう.
いま,看護師と相談員と介護士に立ち会ってもらいましたので,
これからリハビリテーションの目標にすることを説明して,同意を得ました.
しばらくは嚥下評価としてゼリーを食べることから始めましょう.

1ヶ月後に再評価をして,問題がなければ普通食に移行しましょう.
ただし,医師とケアマネと家族の同意を得る必要があります.
私たちからも依頼しますが,あなたも彼らに意思を伝えてください.
専門職と家族の同意をどうやれば得れるのか,一緒に考えましょう.



1ヶ月後



ケアマネさん,娘さん,今日は忙しいところを,ありがとうございます.
まず始めに伝えておきたいことがあります.
これはADOCという作業療法評価とリハ計画書です.
彼は家族と夕ご飯を食べていた頃を,とても大事にしていました.
ずっと言えなかったそうですが,あきらめていなかったそうです.

今から初めて普通食を食べる場面に立ち会ってもらいますが,
これは嚥下の評価でも食べる能力の評価でもありません.
家族と一緒に夕ご飯を食べる生活が,将来的に可能か一緒に考える機会です.
この彼の希望を忘れずに,参加してください.

ムセずに食べることができたら,介助方法について教えます.
料理法,食器,望ましい姿勢,観察するべき点,介助のタイミング,
予測される危険な状態と対処法,段階づけなどについて説明します.
栄養士,看護師,相談員,介護士と一緒に説明します.
でも,どうやるか,何をやるかよりも,意味を知って欲しいのです.


ゴールデンタイムのテレビを観ながら,
家族で一緒に,家族と同じご飯を食べる生活を送るためです.
彼が伝えた,食事を食べることの意味と目的を,共有しましょう.
すべてはこのADOC計画書に書いてあります.

今,彼は歩行器を使えば少しの介助で,歩いてトイレに行けます.
シャツも自分で着けることができます.
日々,ここで介護士と看護師がそうなるように支援しているからです.
これらも彼の希望でした.その理由はすべて,家族のためでした.
食事を口から食べること,と同じ意味でした.







彼は慎重に咀嚼して,飲み込んだ.後半は自らの手で食べた.
その様子を見た家族が尋ねた.
「家族と同じご飯を食べるなら,調理の時に注意することは何ですか」



その瞬間,彼は言葉をつまらせて,

号泣した.

彼に見えたゴールデン・ディナーな日々がボクにも見えた.

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