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2017/10/26

上肢機能回復アプローチ  脳卒中上肢麻痺に対する基本戦略


一気に半分まで読み進んだ.


10年以上前に回復期リハ病棟で担当した,忘れらない患者さんがいる.
まだ働き盛りだったその方は麻痺側手で物を押さえることはできたが,
過剰な筋緊張をコンロールできずに生活で手を使用することはなかった.
それでもADLは自立していたので,やり方を工夫することで復職も可能と予測した.
生活の中で手を使う練習と,4ヶ月後の退院に向けた復職練習を提案した.
頑なに拒否された.

外来リハを利用している知人を指し,
「あの人はもう10年も同じリハビリを受けている.いつか完全に治る可能性があるという意味だろ.
それなら自分も治ってから生活の練習や仕事に戻る練習をする」
外来を利用している件の患者さんは,筋緊張の緩和を目的とした徒手的治療を受けていた.

麻痺の回復には限界があること,あなたの手は生活で使えば今よりも上手く使えること,
手を治すことは手段であって,目的は生活や仕事が再びできるようになること.
若かった私は必死に説明したが受け入れてもらうことはなく,
患者を不安にさせなると職員から指導を受けた.患者の望みに答えなさい,と.

私は上肢機能が回復するメカニズムを説明できないこと,
その方が望むような上肢機能が回復する知識と知恵を持ち合わせていないことが,
歯がゆさ,情けなさ,無能感を生み出していた.

同時期に担当していた方々も思い出す.
少しずつ回復する麻痺手を使ってスプーンで食事をする過程において,
効率的で効果的な道具の使い方を学習していく様を目の当たりにした.
退院後に生活で使える手になった方も,使えなくなった手になった方もいた.
運動学的,生理学的に説明することを試みたが,メカニズムと根拠はひどく曖昧だった.
無責任さは,いつも,密かに強く,自覚していた.

もしも,と思うことがある.

もしも私が10年前にこの本を読む機会があったのなら,
きっと私は正確で多様な選択肢を柔軟に提案することができた.

でも,もしも,は起こせない.
絶対に,起こせることはある.
今,この本を読むことで今の私と患者さんの期待に応えることができる.
それが過去に担当した彼らへの報いと恩返しになるかもしれない.

一気に半分まで進んで,また初めから読み直し始めた.







2017/09/24

第51回日本OT学会旅行記

久しぶりに会う方々が、何の病気ですかと遠慮がちに声をくれた。最強の食事を始めてからMCTオイル、良質の野菜と脂質をできるだけ多く摂り入れ、加工食品や人工甘味料をできるだけ身体に入れない。失った17kgの体重よりも、身体と頭のパフォーマンスを保つ意識を手に入れたことに価値がある。

ルールはシンプルで、必要なことを求め、必要の無いことを拒む。

習慣を変化させるために必要なことは、自分の欲望を抑える強い自制心ではなく、決まった時間に決まった小さい行動を起こすこと。習慣が変われば意識が変わり、意識が変われば行動が強化される。


51回日本作業療法学会の前に、東京工科大へ寄った。佐賀の冨永美紀さんが学生を対象に特別講義を開くと聴いて、友利くんにお願いして受講させてもらった。彼女が震える声で淡々と語るエピソードに潜む、覚悟と誇りを学生が感じ取るのは、今はまだ少し難しいかもしれない。認知症に悩む人と家族と職員を抱きしめるように関わる彼女のスタイルは、初めから完成していたものではなかった。戸惑い、迷い、疑い、絶望と確信、自信、感動を行ったり来たりする中で育まれつつあった。彼女の勇気ある行動と綿密に練られた支援戦略は、これから先も精度を高めていくに違いない。

最低の場所から見上げ、最高の場所から振り返るとわかることがある。








自分や患者さん、家族、職員の潜在的な能力と限界を繰り返し確認する。この経験を重ねた者しか選択できない言葉と行動がある。学生たちもいつか辿り着けと願う友利くん、澤田さんの背中を追って会場へ向かった。

九月の東京は沖縄と変わりない気温で、高層ビル群とうんざりするほどの人混みを避ければ地元にいる感覚だった。日本各地の作業療法士と再会して挨拶し、しばらく語り合った。現実に適応しながら理想を追い求めているうちに、必然と偶然が重なり巡り合ったのだと思い出した。ボクらは不完全であることを自覚している。だからこそクライエントに必要な支援ができる自分へ近づくために、日々少しずつ行動を変化させている。変化は行動しない選択を伴う時がある。望む何かを得るためには、何かを失うことも覚悟する。何かを変えることができる人は、失うことを怖れない。


行動を起こさない雄弁な人よりも、不安定でも行動する人の方が作業療法士として魅力的で可能性がある。







今回は日本作業療法学会に参加するためではなく、日本臨床作業療法学会(COT)の理事会に出席することが旅の目的だった。理事として果たすべき使命、達成するための手段、予測な可能なリスクと対策について早朝から延々と話し合った。それぞれの理事メンバーは業界、組織、団体を横断して大事にしている人間関係があるため、変化を起こすために投じた一石が与える影響を予測できる。慎重に、それでも恐れることなく、我々は何のために存在しているのだと何度も問いを立てる。まだ解決するべき課題はあるけれど、方向性は見定まった。

「ボクらにできること、やるべきこと、やりたいことをボクらで大切にしよう」








齋藤さんと竹林さんの優しく強い言葉を抱きながら、駅へと続く階段を駆け登った。まったくの無条件で自分を支え、成長させてくれる仲間がいる。ボクが求めていたことは、後になって見つけた。彼らと出会うために必要な過程を歩んできたのだろうと、今になってようやく理解できる。秘かに温めてきた夢があった。その実現に向けて、昨日から歩き始めた。この道を進めば何を得るのかと、胸の中で期待と不安がぐるぐる踊る。ただいま、2kg太ったよ。






2017/06/28

第15回沖縄県作業療法学会 学会長講演





山梨の富士温泉病院で,実習地を訪れた奥村先生と中庭に立っていました.
作業療法で学ぶべきことは限りなく広い範囲で,どこまでも深い.
それに比べれば学生と教員,バイザーの差なんて,とても小さい.
この事実を知っているか,知らないかの差はとても大きい.

学生だったので意味がわかりませんでしたが,
10年後に気づき,15年後に理解できました.








未来を語る前に過去と現在を把握しましょう.
学会の前身となる研究大会が存在しており,第8回まで開催されていました.
その年,2001年は回復期リハ病棟,介護保険制度がスタートしました.

彼らは作業療法士という職種に初めて会う同僚に新人でありながら作業療法を説明し,
臨床,管理・運営を兼任して県士会運営,研究発表,学会運営に携わっていたのです.

第8回研究大会の時は190名の会員数で実行委員45名,演題数42本です.
みんなで互いを成長させるために力を尽くしていたのです.
その時期があってこその,今日です.




彼らは何を見ていたのでしょうか.
将来的に作業療法士がさらに能力を活かして社会貢献できるように,
人,制度の環境をコントロールできるよう助け合っていたのです.

もし県士会と学会を解散したとしても,
いずれ有志で集まって再び組織化するでしょう.
なぜ私たちは今日ここにいるのか,考えてください.





次に現在の私たちを考えてみましょう.
この後に開催される県士会総会に出席することでわかります.
職場の業務を遂行しながら会員のために理事は何を考えているのか,
みなさんから集めた会費を何のために,どれだけ投資しているのか.
意図を読み取りながら参加してください.







未来について考えましょう.
20年前は県内OTは250名が需要の飽和点で,それ以降は供給過多と考えられていました.
現在,800名近いOTが県内で勤めていますが,希望すれば就職率は100%です.
介護保険領域ではかなり不足している状況です.これからもまだ必要でしょう.








しかし未来は現在の延長ではありません.
現状のまま次の15年後が経過するわけではありません.
働き方,暮らし方はこれから大きく変わっていきます.









自動化されない職業の上位に作業療法士はリストアップされています.
他の上位にはレクリエーション・セラピスト,メンタルサポーター,
義肢装具士といった作業療法士の知識,技術と関連する職種があります.







機械に変われないから安心かと言えば,そうではありません.
自動化によって消える職業もあるかもしれませんが,
それは緩やかな変化です.

職業が消えることよりも先に訪れるのは,タスクの自動化です.
自動化されるタスク,つまり予測可能な労働の割合は職種によって異なります.







機械やIT,AIが自動化した時間を私たちは寝て過ごすわけではありません.
人間にしかできない,付加価値の高い創造的な仕事に専念できるのです.
職種で仕事内容が決まるとは限らない時代になるのです.







遠い未来の話ではありません.
2025年から2030年の間に,テクノロジーの爆発的な成長が始まるそうです.
人工知能は人工知能を作ることが可能になるからです.







政府はAIやロボット産業の市場を5年で4倍にする計画を立てました.
人間の強みや働く場が失われると感じるかもしれません.
でもAIが社会,企業の新しい課題を発見することによって,
それを解決するための人材,素材が新しく必要になるのです.







テクノロジーを活用する目的は,人間が楽をするためではありません.
3DプリンターやAI分析,IoT,ITを活用することによって,
オーダーメイドの道具やサービスをより安く,早く,安全にクライエントが利用できます.
クライエントの利益を望むのであれば,変化や進化を拒まずに受け入れてください.







しかし,テクノロジーがすべての社会,個人の課題を解決するわけではありません.
障害や状況,目的,環境,役割に合わせて課題を解決する機器を選択する必要があります.
また機器やサービスを使えるように段階付けをするために支援が必要です.

行動心理学や発達心理学,集団力動学,運動学,社会学などの知識を持ち,
人と作業と環境の相互作用を理解している作業療法士は活躍できる可能性があります.







人々の暮らし方と働き方が変わるのであれば,作業療法のあり方も変わります.
社会に背を向けて病院や施設に閉じこもるのではなく,
生活の中に飛び込むのです.社会が求める役割に適応するのです.









変化するのはテクノロジーだけではありません.
明治時代の工場勤務者を管理するために制定された労働基準法が変わります.
少子高齢化に伴い経済規模の縮小化が及ぼす将来的な影響を予測し,
柔軟な働き方ができる制度改革へ向けた一歩がすでに始まっています.

非正規雇用,残業といった問題への対策が注目されていますが,
ITを活用した在宅勤務や副業・兼業を実現するための制度策定も重要です.
社会的弱者が活躍できるように支援することが目的ですが,
作業療法士の働き方も大きく変わるでしょう.









社会が効率的,効果的な体制へ変わろうとしているのであれば,
医療,介護,保健サービスも変わらざる得ないでしょう.
領域を横断して小さい組織が,時間や場所の制約を超えて,
より早く,シンプルに,行動できるようになるのです.

この環境で期待されるのは専門性の高い技術や視点です.
誰でも替わることができる仕事ではなく,
国家試験資格だけではなく領域に特化した武器が必要です.

求められる役割を理解し,学習し続けることで適応するのです.
みなさんが日常的に実践している仕事には価値があるのです.
さらに高いレベルまで技を磨いてください.
同じ作業療法士であっても,代用できないレベルまで成長してください.










職場の仕事だけではなく,あなたがやりたかったことをやってください.
それも誰かが代用できないレベルまで磨きあげてください.
やりたかったことはあなたの中にあるはずです.

ADLに介助が必要な状態で在宅復帰して,妻が認知症で家事もできずやることもなく,
娘は知的障害があるため作業所で働き,コーラ代を稼ぐために身体を売り,
一家の生活を支える手当は叔父が奪い,その叔父は心臓が悪いため働く機会に恵まれず,
さらにその子供はいじめで学校へ通えず・・・特別なケースではないですよね.

みなさんも臨床で関わったことがあるはずです.
無関係でしょうか.無関心ですか.
どうにかしたいと,いつも強く願っていることでしょう.

他職種と有機的に連携することで解決に近づけますが,
作業療法士の知識,技術は貢献できると考えたことはないでしょうか.
沖縄で仲地さん,坂本さん,中野さんたちが貢献できることを証明しています.










すべての課題を一人で解決することは難しいです.
だからこそ,個々人が高いレベルで治療,支援できることを前提にした上で,
チームワクークが必要です.

人々の暮らし方と働き方が変わるのであれば,
作業療法士もまた働き方を変えるのです.
個人が望んでいなくても,社会に合わせて病院,施設の役割も変わるので,
やはり作業療法士の働き方は変わります.







これから15年で変わると言いましたが,変わらないこともあります.
作業療法士は人の潜在的な能力を活かす機会を創るために,
人的,物理的,制度的な環境をコントロールできるように支援する.
その手段としてのADL,家事,趣味,仕事へ適応する技術を提供する.

建築家,教育者,モノづくり職人,行政,芸術家,医療従事者,エンジニアなど,
領域を横断して協業する支援のあり方は10年以上前に海外で実践が報告されています.
作業療法士の本質は時代や文化,制度によって変わることはないのです.






田村浩介さんたちと勉強会を発起したのは13年前です.
その時から伝えていることの本質はまったく変わっていません.
MTDLPやADOCの登場によって話を聞いてくれる人は増えましたが,
当時は発表しても誰も相手にしてくれませんでした.

それでも学びをあきらめたことは一度もありませんでした.
日々の臨床で,クライエントの変化を知っていたからです.
孤独でも研鑽を継続していたことで,
積み上た知識,技術を必要とする人へ提供できるのです.








縁や支援もあって日本各地の方々と繋がると,
同じように前進してきた人と出会うことが稀にあります.
まるで自分と出会ったような感覚です.
成長に影響を与える繋がりは一気に広がり,深まっていきます.

その中で「沖縄はすごいよね」とよく言われます.
でも戸惑います.
私たちはもっと地縁を活かしたネットワークを構築できるはずです.
ひとつのチームになれる可能性があります.

人間関係がシンプルで,顔がわかる規模で,地縁と立地条件を活かせば,
いま日本が立ち向かおうとする未来へ先に挑戦できるでしょう.
日本を追いかけているアジアの国々へ沖縄モデルを提唱することも,
現実的に実現可能なプランです.



 



ここに集まった私たちは異なる職場で働いています.
でも沖縄で暮らす人々へ対して,
健康的でその人らしい生活を支えるという目的で一緒に働くチームです.

職場に多職種が存在しているように,それぞれが強みを借りあって働くのです.
福祉用具,徒手的治療技術,就労支援,住環境支援,面接技術,芸術療法的支援.
強みを持つ職場同僚と同じように,私たちも技術や知識を共有してください.







今回の学会運営はできるだけ直接会って会議を開かず,
Googleドライブを使ってクラウドですべてのデータを全員で共有し,
協議や連絡・相談・報告はLINEを活用しました.
顔を見て話し合いたい時はFaceTimeを活用しました.

若手中心の実行委員50名に対して,新しい学会運営のあり方を提案するためです.
シンプルに,早く,行動的になれる方法を模索して欲しかったからです.
今回の運営法には反省すべき点がいくつか上がるでしょうが,
それはやってみなければわらかなかったことです.



課題と影響が明確になれば,改善し続ければいいのです.
それぞれが研究会や学会を発起し,方法をアレンジして共有できれば,
より効率的で効果的な自分と組織を発展させる方法が見つかるでしょう.

このLINEグループを今日からオープンにします.
参加したい方,誘い方は自由に出入りしてください.
情報を集めたい時や共有したい時に使ってください.
ここから新しいグループが発展していくかもしれません.
どうなるかわかりません.まずやってましょう.






あなたが臨床や研究活動で培った知識,技術を必要としている人がいます.
彼らとすべてを分かち合ってください
あなたが持っていないものを彼らは持っていますし,
それを分かち合ってくれます.

私たちは仲良くなろうと提案しているのではありません.
必要な時に力を借り合う関係を築きましょう.
未来の自分と社会が,より良くなるために.



早く枠から飛び出してください.
あなたが望むなら沖縄で暮らすあなたの家族や友人のために,
あなたにできること,やるべきこと,やりたいことを選択してください.

今日ここに参加している210名,
そして仕事や家庭の事情で参加できなかった仲間たちが一緒に歩みます.








新しい当たり前を,共に創りましょう.


2017/05/21

第4回 日本臨床作業療法学会 学術大会  - 思う×行動 -

ぬるぬるした手汗だった.疲労と二日酔いと慣れない環境のためか.
反射的に手すりを強く握った.
いや違う,動いていない.向こう側の電車だ.

運動知覚のひとつである誘導運動は,
対象間で「取り囲むもの」と「取り囲まれるもの」の関係が成立するとき,
後者の知覚的空間枠組となり,後者の運動が知覚される. 


2017年5月,日本臨床作業療法学会の学術大会に参加するため,仙台で3日間を過ごした.
大会長の齋藤さんはメッセージを送った.
揺るがない意志を自分の中に見つけて育み,
意志に従って行動することで自分が求めている人と繋がることができる.

意味を理解できるのは,行動を起こした経験のある者だけであろう.
結婚や育児,身近な者との死別と似ている.
経験しなければいつまでも理解できないし,経験したらすぐに理解できる.
理解できたら,解釈は変わり続けるかもしれないが忘れることはできない.


何かを変えることができたと実感できた人は,
自分の可能性に期待できる.
変えることができたという記憶と,
またできるはずだという想像力は行動力を高める.

全てを変える必要はない.完璧である必要もない.
小さい経験でも構わない.ペースも個々人で進めればいい.
小さくてもゆっくりでも変えることができた人は,特別な視点を手に入れる.
他人の言葉の中に含まれるストレスや有能感を感じ取る.

学会発表のように目標へ到るまでのプロセスが明確で,
行動の結果がすぐにわかるような状況で説明されると,
自分の経験を重ねるように考え方や方法を学習していく.

こうして成長した会員は点で,大きくなった点が集まれば組織である線も太くなる.
学会の目標は作業を大切にした実践を確かなものにすることであり,
理事も含めた会員の目的はより質の高い臨床実践や研究を究めることにある.
学会の目標と会員の目的に接点がある限り,互いに好影響を与え合うだろう.

そんなことを考えながら,演題発表をできるだけ多く聴いて回った.
行動する者たちに取り囲まれた会員は,
勇気と知恵を振り絞った行動や成果を見える化していた.
まるで自分も何かを成し遂げたような感覚になった.

でも違う,わかっている.動いたのは自分じゃない.
まだ動ける,もっと前進できる.自分の意志に従い,行動しよう.
自分に抱く期待値を超えて進め,自分.